JR中央線「武蔵小金井駅」南口駅前にある文化施設です。578席の大ホールをはじめ、小ホール、市民ギャラリー、4つの練習室、和室、マルチパーパススペースがあります。
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〒184-0004
東京都小金井市本町6-14-45 TEL: 042-380-8077 FAX: 042-380-8078 開館時間: 9:00 ~ 22:00 受付時間: 9:00 ~ 20:00 休館日: 毎月第2火曜日および第3火曜日(祝日の場合はその直後の平日) / 年末年始 |
【こがねいジュニア特派員 イベントレポート vol.5】 こがねい落語特選 納涼 古典究理の会 |
21. 09. 27 |
今年度、当館では新企画として、市内の小中学生から主催公演を鑑賞してレポートを書いてくれる「こがねいジュニア特派員」を募集しました。応募者多数の中、採用された特派員の鑑賞レポートをぜひご覧ください。
(原文のまま、書き起こしています。)
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小金井市立前原小学校 6年 反町 佑さん
「こがねい落語特選」とは、宮地楽器ホールで一年に二度行なわれている(特に毎年この時期にやるというものはない)落語会。僕は昨年十二月の会を見に行ったことがあるのだが、出演者を選ぶセンスにおどろいた。実際には歌ばかり歌っている柳亭市馬に少し失望したのだが、そんなことはどうでもいい。
さて、今回の出演者は、僕が初めて見たとき、思わず「うーん」とうなってしまうほどの人である。柳家三三、立川生志、古今亭菊之丞、入船亭扇遊。立川生志はあまり知らないのだが(!?)、ほかの三人についてはよく知っている。三人とも、古典落語の名人だ。それでは、一人ずつレポートしていこう。
前座が〈道具屋〉を演り、その次に出てきたのは、柳家三三。講談師の神田伯山いわく、「将来の人間国宝」だそう。マクラでは学校寄席について話す。ずいぶん学校寄席は面倒なんだそう。そして、本題に入る。この日のネタは、〈真田小僧〉。子供が父から小づかいを得るために、父に「お父っつぁんがいない間に家にきた男の人」の話をして、その料金を得る噺。しかも、最初は一銭もらって話していたのが、いいところで切って「続きは二銭」というからしぶしぶ二銭わたし、また話してもらうと、またいいところで切って「続きは三銭」・・・。と、こんな具合でどんどんまき上げ、しまいには、父が前のめりになって払ってしまうまでに。子供はすごい。そんな感じに、だんだん父が前のめりになっていく描写の演じ方が、上手だった。やはり、前に出てきた前座とはまったくちがうとまで思ってしまった。これからもっと上手になり、大名人になるだろう(今でも大名人なのだが)。人間国宝である、師匠・小三治を超える存在になると、僕は思う。
次に出てきたのは、古今亭菊之丞。この人は、大名人・古今亭志ん生の弟子・古今亭園菊の弟子。いわば、大名人の孫弟子なのだ。この人も、とてもいい。今回のネタは、〈死神〉。おなじみのネタである。一応あらすじを書いておくと、金にこまった男が死神が見えるようになり、医者になってもうけるも、金に目がくらみ、きたない手を使い、三千両という金を得る。しかし、その追いはらった死神は、死神が見えるようにしてくれた死神で、「死神協会で前座にもどされた」(!?)とのこと。うらまれた男が死神に連れられ、やって来たのはろうそくのたくさんある場所。このろうそくは、「人の命」。この火が消えると、人が死ぬ。だが、男のろうそくの火はきたない手で助けた人と交かんされていて、もう消えそう。「最後のチャンス」で新しいろうそくを渡される。火を移そうとするが、移せず男が死ぬという噺なのだが、死神を「しーさん」とよんだりしていてなぜか面白い。しかも、サゲまで書いたのは理由があるのだ。それは、菊之丞が使ったサゲが、書いたものとちがうのである。どんなサゲかというと、一旦はついたものの死神がわざと消して男が死ぬという最悪のシチュエーションである。これは、立川談志がつくりだしたもので、これを菊之丞が使うとは思ってもみなかった。しかもその死神が、あの男に「因ねんがある」という伏線もあるので、ふき消されてもなぜか納得がいくのもいい。こわい話なのに、ずいぶん笑わせてもらった。この人も、しょう来が楽しみだ。
中入りをはさんで出てきたのは、立川生志。本日の出演者の中でただ一人落語立川流からの出演。この事から、マクラでは落語の協会を政党にたとえたり、師匠・立川談志の話をしたりで会場をばく笑にまきこむ。そして本題。今回のネタは、「たいこ腹」。あらすじは、鍼にこった若旦那が、たいこもちの一八を呼んで鍼を打つ噺...というと面白いところなどどこにもないように思えるが、そうではない。よく考えてほしい。若旦那は、鍼師の息子などではないのだ。先生を呼んだわけでもなく、独学。たいてい落語に出てくる若旦那は、道楽物。親に勘当されるようなやつ。でも、今回は鍼をマジメにやっている...と思ったら、そうでもない。独学で使った本は「きくハリのコツ」だと思ったら「気配りのコツ」。てんてんがついただけで大ちがい。一八はおびえていたほどなので、この噺、大変なのだ。大いに笑わせてもらった。描写がとてもくわしい。あと、ふんいきが一八に似ているのも面白い理由かもしれない。生志は本当に談志の弟子なのかとうたがってしまうほどだ。僕はこの人を初めて聞いたが、なかなかおもしろかった。この人は、また聞きたいと感じた。
さて、楽しい時間は早くすぎる。あっというまに大トリ。入船亭扇遊。大名人である。柳家小三治のライバル・入船亭扇橋の弟子。二年前には紫綬褒章を受けている。実をいうと、この人が一番楽しみだった。とてもワクワクした。今回のネタは、〈試し酒〉。商家の旦那二人が話をしていて、片方が「うちの店には酒が五しょう飲める者がいる」と言いだす。「飲めるわけがない」「いや、飲める」とちょっとだけ言い合い、その者をつれてきて五しょう本当に飲めるのかかけをすることに。そして本人がやって来ると「少し考えさせてくれ」と外に出て、しばらくすると帰ってきて、五しょう本当に飲むと引き受ける。はたしてどうなるか...という噺。そっ直に感想を言う。最高だった。上手い。これなら紫綬褒章も納得だ。ぼくも何度かCDで聞いたが、生はやはりちがった。最高の名人芸。もう、小三治と人間国宝を交代してほしい(?!)ほどだ。これほどまで上手いのはなぜだろうか。まず、ふんいきがいい。それこそ、江戸時代の商家の旦那のようなふんいきをまとっている。物ごしやわらかな感じだ。なのにいせいのいい町人もできる。すごいとしかいいようがない。そして、余計なクスグリが一切ないとうのも理由の一つだとぼくは思う。今日出た立川生志などは、現代的なようそを入れてくる(実際、今回もそういうクスグリを入れてきた)。だが、そういうものが一切ない。古典の本格派なのだ。さらに、描写がとてもくわしい。これも長年のつみ重ねだと思う。五しょうを飲むうちにだんだんよってくるところや、「飲めない」にかけていた方の顔色がみるみる変わっていくところなど、とてもくわしい。もう、じょう景が目に見えるほどだった。やはり、この会に最適の演者だと思った。もう一度言う。最高だった。絶対、この人をまた見に行きたい。
というわけで、最高の二時間三十分だった。どの演者も、とても良い高座だった。そして、やはり選ぶセンスも最高だった。次回(※)も、楽しみだ。
(公演写真:藤本史昭)
※次回は2022年1月22日(土)「こがねい落語特選 新春 異才競演の会」です。
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反町さんの落語への熱い想いが、原稿用紙7枚にぎっしり!
そのボリュームと、評論家のような深い知識と考察に脱帽です。
これからもとことん「好き!」を突き詰めていってほしいなと思います。