バレンタインデーにふさわしい、春の陽気に包まれた2月14日(日)。「ザ・ブラス・ワンダース」公演を開催しました。

「ザ・ブラス・ワンダース」とは、NHK交響楽団首席トランペット奏者・菊本和昭氏の呼びかけで都内プロ・オーケストラ等で活躍する12名のトップ奏者たちが集結し、12名="1(ワン)ダース"と"ワンダフル"をかけてネーミングされた、最強の金管アンサンブル。これがデビュー公演となりました。

さらに、プログラムもスペシャル!吹奏楽の名曲《たなばた》や《大仏と鹿》《森の贈り物》で有名な作曲家・酒井格氏が、この日のために書き下ろした新曲2曲を含む、オール酒井作品のプログラムでした。とくに新曲については、すなわち世界初演であり、会場のお客様は歴史の証人ともなったわけです。

金管楽器のトップ奏者たちが、名曲の作曲家の作品を演奏するという夢のようなコンサートとあって、会場には楽器を持った学生さんたちがたくさん訪れ、開演前から期待とエネルギーが漂い、賑やかな雰囲気でした。

 

まずはコンサートの幕開けを彩るファンファーレから。今回演奏されたのは、新作初演の《グランド・ファンファーレ》。圧巻の十二重奏のアンサンブルで、洗いたての糊のきいたシャツのように清々しいファンファーレが気持ちよく鳴り響きました。

1_DSC5347.jpg

プログラム前半は、各楽器の特徴と魅力を味わえる、とりどりの四重奏から。

まずは、トロンボーン四重奏による《季節の律動》。春風にそよぐような、軽やかな大人のスウィング・ワルツに心も躍りました。

2_DSC5373.jpg

 

続いて、トランペット四重奏。〈食いしん坊のマーチ〉と〈食べ過ぎた後悔〉の2曲から成る新曲《異調宴》(いちょうえん)が初演されました。冗談めいたタイトルとは裏腹に、なんと調性の異なるトランペット4管(E♭・D・C・B♭)の倍音のみで書かれた、論理的で実験的な作品なのです!そしてまた、そのメロディーが頭から離れない...!大変よく効くクスリです。

3_DSC5402.jpg

 

そして、ユーフォニアムとテューバ各2管=「バリテューバ四重奏」による《フルーツ組曲》。愛媛(オレンジ・プレリュード)を出発して、岡山(ピーチ・マーチ)→山梨(グレープ・ワルツ)→青森(アップル・エクスプレス)を旅する洒落た構成で、メロディーやハーモニーがとてもロマンティックな作品です。さらに、この4人のバリテューバ四重奏だからこそあふれる、安心感と包容力にうっとり。甘いひとときに酔いしれました。

4_DSC5441.jpg

 

前半最後は八重奏。《空色のアクア》という既存の作品ですが、今回は「トランペット&トロンボーン八重奏版」で、より一層広大な風景が感じられるようでした。

5_DSC5464.jpg

こうして、前半は、酒井格氏のオリジナル作品を堪能。いよいよ、プログラムは後半へ。

 

とその前に、会場に足を運んでくださった酒井さんご本人登場。菊本さんとのトークで、演奏を聴いての感想や作品のエピソードをお聞かせくださいました。

6_DSC5492.jpg

 

さて、後半のプログラムは、大注目のムソルグスキーの名曲《展覧会の絵》です。もともとはピアノ曲で、オーケストラ版も有名なこの作品は、吹奏楽でもよく演奏されますが、今回はそれを金管楽器12本だけでこなすという、編曲も演奏も前代未聞の挑戦です。構成はラヴェルの編曲版に倣いながらも、吹奏楽を知り尽くす酒井氏の手にかかると、各管楽器の性格や特徴を最大限に活かしながら、ときに意表を突くような組み合わせもされていたり、「悔しいけどピアノやオーケストラではできないな~」と思わされるような、金管楽器にしかできない味付けが随所になされていました。

7_無題.jpg

 

そして、奏者各人の超絶技巧はもちろん、ひとりで吹いているように流れる細かいパッセージの受け渡し、美しく溶け合うハーモニーなどなど、最後までプロの妙技が炸裂!とぼけた雰囲気がよく表された〈卵の殻をつけたひなどりのバレー〉、テクニカルな〈リモージュ〉、重厚で荘厳な〈カタコンブ〉や〈キエフの大門〉などなど、どれひとつとして聴き逃せませんでした。

ちなみに、トランペットを吹く人なら一度は吹いてみたいであろう、冒頭のあの有名な旋律。酒井編/金管十二重奏版では、"あの"楽器から始まります...(気になる方は、オンライン配信で!)

 

35分に及ぶこの難曲を、12人の輝ける男たちが全集中で吹き切り、堂々たる響きが会場と観客の心を満たしました。

鳴りやまない拍手に応え、カーテンコールの最後には、菊本さんが今回の楽器とメンバーを示して「"前向き"に(トランペット&トロンボーン)"上向き"に(ユーフォニアム&テューバ)、いろんなことに負けずに頑張っていきましょう!」という名言を贈ってくださいました。

8_DSC5667.jpg

 

★本公演はオンライン配信でもお楽しみいただけます★

会場にお越しいただけなかった方はもちろん、ご来場くださった方も映像ならではの視点でお楽しみいただけますので、吹奏楽を知り尽くした酒井格の美しくもユーモアあふれる作品と、百戦錬磨の屈強なプロフェッショナルたちの華麗なテクニックとアンサンブルを、ぜひオンライン配信でお確かめください!!

 

●配信期間 2/28(日)10:00~3/13(土)19:00

●オンライン鑑賞券 1,000円

 3/10(水)23:59まで「TIGET(チゲット)」 にて販売中。

 https://www.tiget.net/tours/brasswonders

 

公演写真:藤本史昭

1月24日(日)、東京で連日の感染者数増加の報道に加え、折しも関東地方に大雪の天気予報!お客様は無事にお越しいただけるのか・・不安を抱きながらも、コンサートを心待ちにしてくださっているお客様を思い浮かべながら準備をすすめ、日本が誇るジャズ・ピアニスト、山中千尋のデュオ・コンサートを開催しました。

開演前は、どことなく少しの不安と緊張感が漂っていた会場内ですが、静かに、静かにピアノがリズムを刻み始めると、そのエネルギーは徐々に会場を駆け巡り、少しずつ光を帯び高揚感へと変化していきます。自身の作曲「Living without Friday」でジャズの世界への扉が開かれました。

report_01.jpg report_02.jpg

目の前のピアノが体の一部であるかのように、低音から高音までを自在に操り、送り出される一粒ずつの音にグルーヴ感溢れるベースの低音が呼応し、心地よく響きます。弦をはじく音までもが生き生きと聞こえ、スリリングな駆け引きが舞台上で繰り広げられます。

report_03.jpg

「Pasolini」、「In A Mellow Tone」ではアコースティックな生音を存分に堪能。メランコリックでメロディアスな曲を緻密に表現するピアノ、大人の色香を感じさせるベースの旋律に身を委ね、うっとりするような時間が流れていきます。

report _04.jpg

続いて、チャーミングなエピソードとともに披露された「Antonio's Joke」。ジャズの本場を彷彿とさせる演奏に、会場はすっかりニューヨークの雰囲気に!

report_05.jpg

そして、ジョージ・ガーシュウィンが作曲したオペラ『ポーギーとベス』から、「I Loves you Porgy」で始まった後半。

幼少のころからクラシックにも親しみ、作曲家へのリスペクトをもちながらアレンジをしている山中千尋流の編曲も、

このコンサートの醍醐味の一つです。

「自分のアレンジがきっかけで原曲を聴いてもらえる機会が増えたなら、こんな幸せなことはない」と

事前のインタビューで語ってくれています。「Hackensack」はジャズの大御所、セロニアス・モンクの曲。

独特のメロディラインが癖になる、といわれる原曲と聴き比べてみるのも、楽しみの一つかもしれません。

・・とここで、セットリスト変更の作戦タイムが入ります。

当日の会場の雰囲気で、プログラムを柔軟に変えていく・・これもジャズならではの楽しみですね。

そして、選ばれたのは「星に願いを」。この曲を演奏しよう、と感じてくれたことに感謝したくなるような思いやりに溢れた優しい音が会場を包みます。

report_06.jpg

その後は流れる雄大な川をイメージしたという「Beverly」を歌心たっぷりに。続いては「あたたかくなるような音楽を」と、ガーシュウィンの「Summer time」を圧巻の演奏で披露してくれました。

鳴りやまない拍手に応え、アンコールで演奏してくれたのは、ご本人が「私の代名詞」と語る、出身地である群馬の民謡「八木節」でした。その熱量たるや、言葉ではとても表現できません。。

会場中から渾身の拍手と、声にならない"ブラボー!"が降り注ぎ、再度のアンコールとなった「So Long」。小さい頃の貴重な思い出と、ノスタルジックな曲で締めくくられ、コンサートの幕が下りました。

今回の公演のプログラムを振り返ると、自由なアメリカ!を表現したガーシュウィンの曲、自然や郷里への想いを馳せた曲など、日常を当たり前に過ごすことの幸せや願いなどを音楽にのせ、私たちへ届けてくれたメッセージのように感じました。一流のアーティストから贈られた、心温まるアコースティックなジャズ・ライヴでした。

ご来場くださった皆様、ありがとうございました。

公演写真:藤本史昭

皆がいつもとは違う年末年始を過ごし、緊急事態宣言再発出とともに世の中が動き始めた1月9日(日)、年明け最初の公演となる「樫本大進&キリル・ゲルシュタイン」を開催しました。 世界最高峰のオーケストラ「ベルリン・フィル」の第1コンサートマスターと、世界中のオーケストラと共演するスター・ピアニストの小金井登場に、早くからたくさんの期待が寄せられ、チケットは早々に完売。座席の半数制限を継続せざるを得ない非常に厳しい状況下で、お越しいただけなかった皆様には申し訳ない気持ちでしたが、万全な対策をとって開催いたしました。

_DSC2979.jpg

今回のプログラムは、事前インタビューで樫本氏が「"ビュッフェ・スタイル"、1曲1曲の内容の濃さ、対比や面白さ、味わいがある」と述べていた通り、プロコフィエフ、フランク、武満徹、ベートーヴェンと、国も時代もさまざまな作曲家の作品が並ぶ、彩り豊かなものでした。

まずは、プロコフィエフの《5つのメロディー》。元々は歌曲として書かれた作品で、性格も色合いも異なる5つの世界が表現されます。芯があって情感豊かなヴァイオリンの音色と、その空気を感じ取って増幅するピアノとが、聴く者を夢幻の世界へと誘いました。

続いては、フランク《ヴァイオリン・ソナタ》。フランス音楽らしい匂い立つようなハーモニーとたゆたうメロディー、ドイツ的な力強い構築を備えるこの名曲が、一音たりとも無駄なく隙なく、余韻までを動かすほどの濃密な演奏で描き切られました。二人の高い精神力と情熱的な"歌"は、ピアノとヴァイオリンだけとは思えないほどのエネルギーと色彩を放ち、まるでオーケストラ作品を聴いているかのような壮大さと高揚感を覚えるものでした。

_DSC2655.jpg_DSC2709.jpg

後半は、演奏者本人が「今回のプログラムの核」と位置付けた、武満徹《妖精の距離》からスタート。言葉少なに描かれ、緊張感ただよう静けさをまといながら、うつろう光や空気を感じさせる繊細で美しい作品です。二人とも初めて演奏されたそうですが、フランク、ベートーヴェンと劇的な作品の合間に置かれ、会場は束の間の静けさと余白の美しさに身をゆだねました。

_DSC2675.jpg

そして大トリは、古今東西あまたあるヴァイオリン・ソナタの中でも、最高傑作のひとつに数えられる、ベートーヴェンの《クロイツェル》。作曲者自身によって「ほとんど協奏曲のような様式」と記される通り、コンチェルトを思わせる構成やボリューム感があり、ヴァイオリンもピアノも高い技術と表現力を要し、肉体・精神ともに大変な能力を求められる作品です。 スリリングな第1楽章はパワフルに厳格に、愛らしい変奏曲で紡がれる第2楽章は軽やかに優しく、疾走する第3楽章はあふれる躍動感と冒険心を、一糸乱れぬ見事なアンサンブルと丁々発止の高度な対話で展開しました。

_DSC2896.jpg

これだけの"骨太"なプログラム、期待をはるかに超える渾身の演奏に、会場の感動と興奮は最高潮に達し、鳴りやまない拍手に応えたアンコールは、なんと2曲!ルドルフ・フリムル(「蒲田行進曲」の原曲の作曲者だそうです!)の《ベルスーズ》(子守歌)と、クライスラーの《シンコペーション》が贈られました。

互いに傾聴し、そこからさらにインスピレーションを得て表現を昇華していく様は、これぞ音と音との対話、一流の演奏を焼き付けるものであり、かつ喜怒哀楽や包容力といった人間味にもあふれ、芸術のすばらしさ、生きる喜びをも私たちの心に深く訴えるものでした。

_DSC3042.jpg

今回の来日では、お二人ともクリスマス前にドイツから入国され、2週間の隔離期間を経てこの日本ツアーに臨んでくださいました。演奏者も、こうした経験は初めてとのことでしたが、厳しい条件をクリアして、小金井で演奏してくださったことに感謝の気持ちでいっぱいです。

ご来場くださったお客様からも、「コロナ禍をすっかり忘れる、至福のひとときでした」「地元小金井で世界トップの演奏が楽しめて幸せです」「音楽(芸術)は人間にとって、必要不可欠のものと改めて感じました」など、喜びを噛みしめるコメントが多数寄せられました。

歌舞音曲は不要不急のものとされがちですが、芸術はどんなときにも人間の心に寄り添ってくれるかけがえのないもの。世界中が困難に立ち向かい苦しい状況である今だからこそ、一層人間に必要不可欠なものであることを胸に、これからも皆様に文化芸術のすばらしさをお届けして参ります。

公演写真:藤本史昭

月別アーカイブ

2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
最新の書き込み
 
 
2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年

 
〒184-0004
東京都小金井市本町6-14-45
TEL: 042-380-8077
FAX: 042-380-8078

開館時間: 9:00 ~ 22:00
受付時間: 9:00 ~ 19:00
休館日: 毎月第2火曜日および第3火曜日(祝日の場合はその直後の平日) / 年末年始 / 保守点検日
イベントレポート
【ホールの響きシリーズ】ザ・ブラス・ワンダース
21. 02. 27

バレンタインデーにふさわしい、春の陽気に包まれた2月14日(日)。「ザ・ブラス・ワンダース」公演を開催しました。

「ザ・ブラス・ワンダース」とは、NHK交響楽団首席トランペット奏者・菊本和昭氏の呼びかけで都内プロ・オーケストラ等で活躍する12名のトップ奏者たちが集結し、12名="1(ワン)ダース"と"ワンダフル"をかけてネーミングされた、最強の金管アンサンブル。これがデビュー公演となりました。

さらに、プログラムもスペシャル!吹奏楽の名曲《たなばた》や《大仏と鹿》《森の贈り物》で有名な作曲家・酒井格氏が、この日のために書き下ろした新曲2曲を含む、オール酒井作品のプログラムでした。とくに新曲については、すなわち世界初演であり、会場のお客様は歴史の証人ともなったわけです。

金管楽器のトップ奏者たちが、名曲の作曲家の作品を演奏するという夢のようなコンサートとあって、会場には楽器を持った学生さんたちがたくさん訪れ、開演前から期待とエネルギーが漂い、賑やかな雰囲気でした。

 

まずはコンサートの幕開けを彩るファンファーレから。今回演奏されたのは、新作初演の《グランド・ファンファーレ》。圧巻の十二重奏のアンサンブルで、洗いたての糊のきいたシャツのように清々しいファンファーレが気持ちよく鳴り響きました。

1_DSC5347.jpg

プログラム前半は、各楽器の特徴と魅力を味わえる、とりどりの四重奏から。

まずは、トロンボーン四重奏による《季節の律動》。春風にそよぐような、軽やかな大人のスウィング・ワルツに心も躍りました。

2_DSC5373.jpg

 

続いて、トランペット四重奏。〈食いしん坊のマーチ〉と〈食べ過ぎた後悔〉の2曲から成る新曲《異調宴》(いちょうえん)が初演されました。冗談めいたタイトルとは裏腹に、なんと調性の異なるトランペット4管(E♭・D・C・B♭)の倍音のみで書かれた、論理的で実験的な作品なのです!そしてまた、そのメロディーが頭から離れない...!大変よく効くクスリです。

3_DSC5402.jpg

 

そして、ユーフォニアムとテューバ各2管=「バリテューバ四重奏」による《フルーツ組曲》。愛媛(オレンジ・プレリュード)を出発して、岡山(ピーチ・マーチ)→山梨(グレープ・ワルツ)→青森(アップル・エクスプレス)を旅する洒落た構成で、メロディーやハーモニーがとてもロマンティックな作品です。さらに、この4人のバリテューバ四重奏だからこそあふれる、安心感と包容力にうっとり。甘いひとときに酔いしれました。

4_DSC5441.jpg

 

前半最後は八重奏。《空色のアクア》という既存の作品ですが、今回は「トランペット&トロンボーン八重奏版」で、より一層広大な風景が感じられるようでした。

5_DSC5464.jpg

こうして、前半は、酒井格氏のオリジナル作品を堪能。いよいよ、プログラムは後半へ。

 

とその前に、会場に足を運んでくださった酒井さんご本人登場。菊本さんとのトークで、演奏を聴いての感想や作品のエピソードをお聞かせくださいました。

6_DSC5492.jpg

 

さて、後半のプログラムは、大注目のムソルグスキーの名曲《展覧会の絵》です。もともとはピアノ曲で、オーケストラ版も有名なこの作品は、吹奏楽でもよく演奏されますが、今回はそれを金管楽器12本だけでこなすという、編曲も演奏も前代未聞の挑戦です。構成はラヴェルの編曲版に倣いながらも、吹奏楽を知り尽くす酒井氏の手にかかると、各管楽器の性格や特徴を最大限に活かしながら、ときに意表を突くような組み合わせもされていたり、「悔しいけどピアノやオーケストラではできないな~」と思わされるような、金管楽器にしかできない味付けが随所になされていました。

7_無題.jpg

 

そして、奏者各人の超絶技巧はもちろん、ひとりで吹いているように流れる細かいパッセージの受け渡し、美しく溶け合うハーモニーなどなど、最後までプロの妙技が炸裂!とぼけた雰囲気がよく表された〈卵の殻をつけたひなどりのバレー〉、テクニカルな〈リモージュ〉、重厚で荘厳な〈カタコンブ〉や〈キエフの大門〉などなど、どれひとつとして聴き逃せませんでした。

ちなみに、トランペットを吹く人なら一度は吹いてみたいであろう、冒頭のあの有名な旋律。酒井編/金管十二重奏版では、"あの"楽器から始まります...(気になる方は、オンライン配信で!)

 

35分に及ぶこの難曲を、12人の輝ける男たちが全集中で吹き切り、堂々たる響きが会場と観客の心を満たしました。

鳴りやまない拍手に応え、カーテンコールの最後には、菊本さんが今回の楽器とメンバーを示して「"前向き"に(トランペット&トロンボーン)"上向き"に(ユーフォニアム&テューバ)、いろんなことに負けずに頑張っていきましょう!」という名言を贈ってくださいました。

8_DSC5667.jpg

 

★本公演はオンライン配信でもお楽しみいただけます★

会場にお越しいただけなかった方はもちろん、ご来場くださった方も映像ならではの視点でお楽しみいただけますので、吹奏楽を知り尽くした酒井格の美しくもユーモアあふれる作品と、百戦錬磨の屈強なプロフェッショナルたちの華麗なテクニックとアンサンブルを、ぜひオンライン配信でお確かめください!!

 

●配信期間 2/28(日)10:00~3/13(土)19:00

●オンライン鑑賞券 1,000円

 3/10(水)23:59まで「TIGET(チゲット)」 にて販売中。

 https://www.tiget.net/tours/brasswonders

 

公演写真:藤本史昭

 
イベントレポート
【EXCITING STAGE】山中千尋ジャズ・ライヴ
21. 02. 10

1月24日(日)、東京で連日の感染者数増加の報道に加え、折しも関東地方に大雪の天気予報!お客様は無事にお越しいただけるのか・・不安を抱きながらも、コンサートを心待ちにしてくださっているお客様を思い浮かべながら準備をすすめ、日本が誇るジャズ・ピアニスト、山中千尋のデュオ・コンサートを開催しました。

開演前は、どことなく少しの不安と緊張感が漂っていた会場内ですが、静かに、静かにピアノがリズムを刻み始めると、そのエネルギーは徐々に会場を駆け巡り、少しずつ光を帯び高揚感へと変化していきます。自身の作曲「Living without Friday」でジャズの世界への扉が開かれました。

report_01.jpg report_02.jpg

目の前のピアノが体の一部であるかのように、低音から高音までを自在に操り、送り出される一粒ずつの音にグルーヴ感溢れるベースの低音が呼応し、心地よく響きます。弦をはじく音までもが生き生きと聞こえ、スリリングな駆け引きが舞台上で繰り広げられます。

report_03.jpg

「Pasolini」、「In A Mellow Tone」ではアコースティックな生音を存分に堪能。メランコリックでメロディアスな曲を緻密に表現するピアノ、大人の色香を感じさせるベースの旋律に身を委ね、うっとりするような時間が流れていきます。

report _04.jpg

続いて、チャーミングなエピソードとともに披露された「Antonio's Joke」。ジャズの本場を彷彿とさせる演奏に、会場はすっかりニューヨークの雰囲気に!

report_05.jpg

そして、ジョージ・ガーシュウィンが作曲したオペラ『ポーギーとベス』から、「I Loves you Porgy」で始まった後半。

幼少のころからクラシックにも親しみ、作曲家へのリスペクトをもちながらアレンジをしている山中千尋流の編曲も、

このコンサートの醍醐味の一つです。

「自分のアレンジがきっかけで原曲を聴いてもらえる機会が増えたなら、こんな幸せなことはない」と

事前のインタビューで語ってくれています。「Hackensack」はジャズの大御所、セロニアス・モンクの曲。

独特のメロディラインが癖になる、といわれる原曲と聴き比べてみるのも、楽しみの一つかもしれません。

・・とここで、セットリスト変更の作戦タイムが入ります。

当日の会場の雰囲気で、プログラムを柔軟に変えていく・・これもジャズならではの楽しみですね。

そして、選ばれたのは「星に願いを」。この曲を演奏しよう、と感じてくれたことに感謝したくなるような思いやりに溢れた優しい音が会場を包みます。

report_06.jpg

その後は流れる雄大な川をイメージしたという「Beverly」を歌心たっぷりに。続いては「あたたかくなるような音楽を」と、ガーシュウィンの「Summer time」を圧巻の演奏で披露してくれました。

鳴りやまない拍手に応え、アンコールで演奏してくれたのは、ご本人が「私の代名詞」と語る、出身地である群馬の民謡「八木節」でした。その熱量たるや、言葉ではとても表現できません。。

会場中から渾身の拍手と、声にならない"ブラボー!"が降り注ぎ、再度のアンコールとなった「So Long」。小さい頃の貴重な思い出と、ノスタルジックな曲で締めくくられ、コンサートの幕が下りました。

今回の公演のプログラムを振り返ると、自由なアメリカ!を表現したガーシュウィンの曲、自然や郷里への想いを馳せた曲など、日常を当たり前に過ごすことの幸せや願いなどを音楽にのせ、私たちへ届けてくれたメッセージのように感じました。一流のアーティストから贈られた、心温まるアコースティックなジャズ・ライヴでした。

ご来場くださった皆様、ありがとうございました。

公演写真:藤本史昭

 
イベントレポート
【THE SUPER PREMIUM】樫本大進&キリル・ゲルシュタイン
21. 02. 03

皆がいつもとは違う年末年始を過ごし、緊急事態宣言再発出とともに世の中が動き始めた1月9日(日)、年明け最初の公演となる「樫本大進&キリル・ゲルシュタイン」を開催しました。 世界最高峰のオーケストラ「ベルリン・フィル」の第1コンサートマスターと、世界中のオーケストラと共演するスター・ピアニストの小金井登場に、早くからたくさんの期待が寄せられ、チケットは早々に完売。座席の半数制限を継続せざるを得ない非常に厳しい状況下で、お越しいただけなかった皆様には申し訳ない気持ちでしたが、万全な対策をとって開催いたしました。

_DSC2979.jpg

今回のプログラムは、事前インタビューで樫本氏が「"ビュッフェ・スタイル"、1曲1曲の内容の濃さ、対比や面白さ、味わいがある」と述べていた通り、プロコフィエフ、フランク、武満徹、ベートーヴェンと、国も時代もさまざまな作曲家の作品が並ぶ、彩り豊かなものでした。

まずは、プロコフィエフの《5つのメロディー》。元々は歌曲として書かれた作品で、性格も色合いも異なる5つの世界が表現されます。芯があって情感豊かなヴァイオリンの音色と、その空気を感じ取って増幅するピアノとが、聴く者を夢幻の世界へと誘いました。

続いては、フランク《ヴァイオリン・ソナタ》。フランス音楽らしい匂い立つようなハーモニーとたゆたうメロディー、ドイツ的な力強い構築を備えるこの名曲が、一音たりとも無駄なく隙なく、余韻までを動かすほどの濃密な演奏で描き切られました。二人の高い精神力と情熱的な"歌"は、ピアノとヴァイオリンだけとは思えないほどのエネルギーと色彩を放ち、まるでオーケストラ作品を聴いているかのような壮大さと高揚感を覚えるものでした。

_DSC2655.jpg_DSC2709.jpg

後半は、演奏者本人が「今回のプログラムの核」と位置付けた、武満徹《妖精の距離》からスタート。言葉少なに描かれ、緊張感ただよう静けさをまといながら、うつろう光や空気を感じさせる繊細で美しい作品です。二人とも初めて演奏されたそうですが、フランク、ベートーヴェンと劇的な作品の合間に置かれ、会場は束の間の静けさと余白の美しさに身をゆだねました。

_DSC2675.jpg

そして大トリは、古今東西あまたあるヴァイオリン・ソナタの中でも、最高傑作のひとつに数えられる、ベートーヴェンの《クロイツェル》。作曲者自身によって「ほとんど協奏曲のような様式」と記される通り、コンチェルトを思わせる構成やボリューム感があり、ヴァイオリンもピアノも高い技術と表現力を要し、肉体・精神ともに大変な能力を求められる作品です。 スリリングな第1楽章はパワフルに厳格に、愛らしい変奏曲で紡がれる第2楽章は軽やかに優しく、疾走する第3楽章はあふれる躍動感と冒険心を、一糸乱れぬ見事なアンサンブルと丁々発止の高度な対話で展開しました。

_DSC2896.jpg

これだけの"骨太"なプログラム、期待をはるかに超える渾身の演奏に、会場の感動と興奮は最高潮に達し、鳴りやまない拍手に応えたアンコールは、なんと2曲!ルドルフ・フリムル(「蒲田行進曲」の原曲の作曲者だそうです!)の《ベルスーズ》(子守歌)と、クライスラーの《シンコペーション》が贈られました。

互いに傾聴し、そこからさらにインスピレーションを得て表現を昇華していく様は、これぞ音と音との対話、一流の演奏を焼き付けるものであり、かつ喜怒哀楽や包容力といった人間味にもあふれ、芸術のすばらしさ、生きる喜びをも私たちの心に深く訴えるものでした。

_DSC3042.jpg

今回の来日では、お二人ともクリスマス前にドイツから入国され、2週間の隔離期間を経てこの日本ツアーに臨んでくださいました。演奏者も、こうした経験は初めてとのことでしたが、厳しい条件をクリアして、小金井で演奏してくださったことに感謝の気持ちでいっぱいです。

ご来場くださったお客様からも、「コロナ禍をすっかり忘れる、至福のひとときでした」「地元小金井で世界トップの演奏が楽しめて幸せです」「音楽(芸術)は人間にとって、必要不可欠のものと改めて感じました」など、喜びを噛みしめるコメントが多数寄せられました。

歌舞音曲は不要不急のものとされがちですが、芸術はどんなときにも人間の心に寄り添ってくれるかけがえのないもの。世界中が困難に立ち向かい苦しい状況である今だからこそ、一層人間に必要不可欠なものであることを胸に、これからも皆様に文化芸術のすばらしさをお届けして参ります。

公演写真:藤本史昭