2023度の目玉企画『にっぽん、体感。―古典芸能の祭典』シリーズの締めくくりとして開催した、「『星の王子さま』との出逢い ~能と音楽で綴る物語~」。
フランス文学の名作『星の王子さま』を映像と語りで綴りながら、小金井市在住の能楽師 津村禮次郎さんによる舞と謡、フランスを拠点に活躍する仲野麻紀さんによるサクソフォーンなどの音楽を融合させるという、初の試みとなるステージです。
鳥のさえずりや、自然の音がさり気なく流れる会場がすっと暗転すると、舞台前方の紗幕にファンタジックな星空が映し出され、舞台はスタート。
シーンはパイロットの「ぼく」が不時着した砂漠へ。仲野さんによるアラビアの伝統曲やエジプトの楽器ナーイでの演奏がエキゾチックな雰囲気を盛り上げます。津村さんが登場すると、その佇まいだけで空間が引き締まり、キーワードを反芻する舞と謡が、「ぼく」や小さな星からやってきた「王子さま」、それからひつじやバラ、バオバブの木などのエピソードから発せられるメッセージを幻想的かつ重層的に訴えかけてくるようでした。仲野さんのフランス語での語りや歌、佃 良太郎さんによる大鼓の音も、優しい味のスープの中でピリリと効くスパイスのようなアクセントとなり、物語を彩ります。
後半は、王子さまが旅をした星々で出会った「ちょっと変わった人」のエピソードから。そこには純真無垢な少年とは対照的な人間の強欲や邪念が渦巻いていました。地球に辿り着こうというシーンでは、せわしなく切り替わる映像とともに、サクソフォーン、舞、鼓も激しさを増し、カオスな世界が表現され、現代の地球が持つ課題を突き付けられているようでもありました。
その後、もっとも有名シーンのひとつであるバラとのエピソードが印象的に綴られました。
「仲良しになったら、ぼくらは互いに世界にひとつだけの特別な存在になるんだ」
「心で見なきゃ、ものごとはよく見えない。肝心なことは、目に見えないんだよ」
大切なメッセージが、カリンバやサクソフォーンのあたたかく切ない音色が包み込み、文字、朗読、謡、舞、鼓、様々な要素が融合して観客ひとりひとりの心に響きました。
終演後は、出演者によるアフタートークで、公演制作の想いなどが語られました。中でも「相手の表現技術にリスペクトを持ち、心が通うと違う楽器でも通じ合う」というお話は、まさに『星の王子さま』で綴られ、世界中で愛されている名言「大切なものは目に見えない」「時を重ねることで世界にひとつだけの特別な存在になる」ということに通じるものがあると感じました。
お客様からも「サン=テグジュペリと能の世界がぴったりとはまり素敵だった」「舞台を見ているのに、自分の心を見つめているような感覚だった」「もうこの世にはいない大切な人に会えたような気がした」などのお声が寄せられました。
ご来場いただきましたみなさま、このレポートを読んでいただきましたみなさま、ありがとうございました。
■公演の様子は、小中学生の「こがねいジュニア特派員」もレポートしてくれています。こちらもぜひご覧ください。
【こがねいジュニア特派員 イベントレポート vol.32】
【こがねいジュニア特派員 イベントレポート vol.33】
【こがねいジュニア特派員 イベントレポート vol.34】
(公演写真:横田敦史)