挾間美帆 × 滝 千春 インタビュー
小金井出身の世界的ヴァイオリニスト滝千春が、ジャンルを超えて共鳴するジャズ作曲家・挾間美帆と立ち上げた全く新しいプロジェクトが「MaNGROVE(マングローブ)」だ。一体どんなコンサートになるのか、プロデューサーを務める2人に話をうかがった。
――おふたりは、そもそもどのように出会ったんですか?
挾間「私は小さい頃からオーケストラが大好きでして、特にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が凄く好きなんです。なかでも指揮者サイモン・ラトルとのコンビは、中高生時代の自分にとって本当に神様のような存在でした。今から振り返っても、自分の音楽観とか表現の可能性とかを育ててくれたと思うし、当時の自分にとっての生き甲斐になっていたぐらいで。だからラトルがベルリンフィルの首席指揮者をやめると聞いて、そのためだけに2018年6月にベルリンまで行って、首席指揮者として最後の演奏会を聴くことにしたんです。そうしたらその公演に、中学の同級生が乗っていたんですよ! 人生でこれほど人のことを羨ましいと思ったことはないですね(笑)。彼から “ベルリンに来るんだったら絶対に気が合いそうなやつがいるんだけど、名前だけ教えるから連絡とって!”……と言われて紹介されたのが滝千春でした。そして公演の後に、皆さんでご飯を食べに行きました。」
滝「私からすると彼は高校の同級生なんですよ。その晩は楽しかったってことしか覚えていないぐらい、大した話はしていないんです。それで翌日、改めてランチをご一緒したんですけど、その会話がすごく楽しかったんです! 出てくる言葉ひとつひとつに重みがあることにちょっと感動して、この人と仲良くなりたいと思ったんです。だから音楽家としてどうこうの前に人柄に惹かれて惚れ込んだんですね」
――それでベルリンでの楽しい出会いの後、実際に音楽で共演するのは……?
滝「それから数年後、東京オペラシティの“B→C(ビートゥーシー|バッハからコンテンポラリーへ)”という公演に出演することが決まりまして。その時、真っ先に浮かんだアイデアが挾間さんに新作を書いてもらうことだったんです。それで連絡をとって……」
挾間「2人の地元が近いので、そこでお茶しながら相談したよね(笑)」
――こうして生まれたのが、滝さんのYouTubeでも公開されている《B↔C(ビー・トゥー・シー)》という曲ですね。公演名の矢印だけ双方向に変えてタイトルにしていますが、どういうコンセプトの楽曲なのでしょう?
挾間「最初はB(=シ)とC(=ド)の間に音がいっぱいある離れた状態からはじまって、行き来を繰り返していくとその距離がだんだん縮まっていき、最後はシとドが隣り合わせになって終わる、非常に明快でシンプルなコンセプトで書いたんですよ。でも作曲には苦労してまず、BとCが離れている段階で、その間にBとCを使っちゃいけないのか、それともいいのか? コンセプトも大事ですけど、音楽的に成り立たせないといけないので……。あとは無伴奏だと特にメロディを弾いている下の和音は開放弦をうまく使うことで可能性が広がるんですね。主にその2つに苦労しながら作ったことを覚えています。
滝「演奏している側としては全然シンプルじゃないんです(笑)。確かに一言でいえばBとCを行き交う曲なんですけど、その駆け巡るあいだにドラマがちゃんとあったり、一度聴いたら忘れられないリズムがあったりして、きっちりと人の心を掴むのがさすがなんです」
挾間「私が驚いたのは、それを暗譜で演奏したんですよ! 考えられない(笑)」
滝「何でしょう……ちょっと根性見せたい!みたいな感じでハートが燃えてしまったんですよね」
挾間「いやあビックリでしたよ。それに初演(2021年)の時点で、作曲者である私の手から完全に独り立ちした作品として聴かせてくれたのがとても嬉しかったですね。解釈としても彼女の音楽になっていたので何も心配することなく客観的に楽しめましたし、作曲家としてこんなに幸せなことはなかったです」
――滝さんは新しい音楽を演奏する際、どんな意識で向かいあっているんですか?
滝「作曲家の理想を超えたいとはいつも思っていますね。楽譜に書かれている音ひとつひとつに意味のないものはないと信じているので、ちゃんと自分のなかで言語化して消化して、またそれを演奏として発信する。そこまでのプロセスを責任もってちゃんとやらなきゃいけないと意識しています。逆にちゃんと消化しきれていないなと思ったら、そのフレーズに向き合うようにして、最終的には自分発信で伝えられる音楽に仕上げるようにしています。でも同時に、あくまでも主体は作品であり、作曲家であると思っていて、演奏家である自分は良質なフィルターでありたいですね。作品があるからこそ、私は舞台上で生かされているんです」
――そのあと、すぐに次のコラボレーションは続かなかったのでしょうか?
滝「実はそのあと、次は挾間さんと弦楽でヨーロッパ・ツアーをすることが決まっていたんですけど、新型コロナのために何度も延期された末に中止されてしまったんです。その代わり挾間さんにベルリンまで来てもらって収録したのが、YouTubeにもアップしている《B↔C》の映像です。だから、このMaNGROVEはそのヨーロッパ・ツアーのリベンジでもあるんですよ」
――あらためてMaNGROVEという名前には、どのような思いが込められているのでしょう?
挾間「マングローブは熱帯雨林のアマゾンに生息する非常に貴重で、唯一無二ともいえるユニークなアイデンティティをもった植物ですよね。このプロジェクトのユニークさを表し、なおかつ人(Man)が紡ぐグルービー(Groovy)な音楽を生み出したいといった思いから、みんなで知恵を出し合って名付けました」
――クラシックのミュージシャンによる弦楽四重奏と、クラシックとジャズの両方を演奏できるコントラバスとピアノ……という、やや変則的な六重奏を選んだのは何故なのでしょう?
挾間「組曲《Space in Senses》を再演して新たな可能性を見出したいという思いが非常に強くあるからですね。これは私自身にとって本格的なデビューとなった2013年の「挾間美帆のジャズ作曲家宣言!」という公演で初演したオーケストラと2台ピアノ(山下洋輔と挾間が演奏)の曲で、星座などといった空間に作られる形を題材にしています。翌年の出光音楽賞受賞記念コンサートで演奏したのが今回と同じ六重奏に編曲したバージョンでして、この編成のなかで出来る曲目をプログラムに選びました」
――弦楽四重奏のメンバーですが、山根一仁さん(ヴァイオリン)は挾間さんと過去にも共演していましたよね。
挾間「はい、そうなんです。今回も演奏する《CHIMERA》という弦楽四重奏曲はもともと、横浜みなとみらいホールの「Just Composed in Yokohama」というシリーズで、プログレッシヴ・ロックもレパートリーにしているモルゴーア・クァルテットのために作曲したんですよ。それで今度は、このシリーズに山根君が出演することになって、その時に《CHIMERA》をヴァイオリンとピアノで再演したんです」
――それ以外のメンバーはどのように決めたのでしょう?
滝「私が選ばせていただきました。ルオシャ・ファン(ヴィオラ)は日本では知られていないかも知れませんが、数年前にブダペストの音楽祭で出会ったヴァイオリスト兼ヴィオリストです。中国出身で、今はニューヨークを拠点にしています。全くもって誰とも似通っていない自分の音楽をクリエイトする、いつもサプライズを与えてくれるような音楽家なので、一緒に共演したら自分がどんな風に変われるのか、今からとても楽しみなんですよ。佐藤晴真くん(チェロ)は色んな物事を立体的にとらえて、音楽を構築していけるので、この4人で絶対に良い化学反応が起きるなと確信しています」
挾間「全員、個性強いですね(笑)。大編成で出来ないことをやろうとしているので、このメンバーは本当に楽しみです。それこそ《CHIMERA》もどうなるのかワクワクしています。コントラバスの木村将之さんは私がお願いしたんですけど、彼以外は考えられなかったです。やっぱり芸大卒なんで本当に巧くて楽器がよく鳴る。楽譜が読めて、ジャズの即興も出来る。私としては非常に安心して楽譜が書ける信頼感があります」
――先ほどまで何回か話題にあがりましたけど、それでも挾間さんは作編曲と指揮に比べると、ピアノの演奏を披露する機会ってかなり限られていましたよね。
挾間「デビュー以来、自分で作編曲した曲以外をピアノで弾くことってほぼなかったんですよ。でも今回は敬愛するクラウス・オガーマンが編曲したチャップリンのスマイルも、滝さんと私のふたりで演奏しようと思っています。私自身、編曲という仕事をしていていつも気をつけているのは、アレンジャーが手を加えすぎて原曲の良さを潰してしまうケースです。ところが、このオガーマンのアレンジはチャップリンの原曲から大きく変えすぎているほどなのに、あまりにも素晴らしくて、編曲の極地にあるような作品なんですよ! 私も滝さんも大好きなプロコフィエフの『ロメオとジュリエット』をアレンジして六重奏で取り上げるので、こちらは原曲の良さを残しつつ、今回のテーマであるグルービーな部分を付け足せたらと考えています」
――滝さんにとってプロコフィエフは、単に好きな作曲家というどころか、最も近しく感じる作曲家だそうですね。スランプだったときもプロコフィエフは問題なく弾けたとおっしゃっていました。
滝「プロコフィエフが並べる音符は、私にとって言葉として届くんです。音符だから言語の壁を超えて、彼の言いたいことがスッと入ってくる感覚になります。だから何らかのストーリーがあるように聴こえるんです。それはサウンドが全く違っていても挾間さんの音楽にも共通していて、聴いていると何かしらかが想像できるからこそ、どちらも凄く共感できるのだと思います」
――このプロジェクトの記念すべき初披露の場となる小金井 宮地楽器ホール(小金井市民交流センター)では、これまでも滝さんが意欲的な企画を実施してきましたね。
滝「小金井市は私にとって地元なのですが、小金井 宮地楽器ホールではシュニトケやペルトを取り上げる攻めた企画をやらせてもらったりと非常にお世話になっています。ここでまた新しいプロジェクトをはじめられるのが本当に嬉しくて。とてもいいホールなので武蔵小金井駅まで是非とも聴きに来ていただきたいですね!」
――このプロジェクトでどんな化学反応が起こるのか、ますます楽しみになりました!
2025年7月28日(月)
インタビュー:小室敬幸
小金井出身の世界的ヴァイオリニスト滝千春が、ジャンルを超えて共鳴するジャズ作曲家・挾間美帆と立ち上げた全く新しいプロジェクトが「MaNGROVE(マングローブ)」だ。一体どんなコンサートになるのか、プロデューサーを務める2人に話をうかがった。
――おふたりは、そもそもどのように出会ったんですか?
挾間「私は小さい頃からオーケストラが大好きでして、特にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が凄く好きなんです。なかでも指揮者サイモン・ラトルとのコンビは、中高生時代の自分にとって本当に神様のような存在でした。今から振り返っても、自分の音楽観とか表現の可能性とかを育ててくれたと思うし、当時の自分にとっての生き甲斐になっていたぐらいで。だからラトルがベルリンフィルの首席指揮者をやめると聞いて、そのためだけに2018年6月にベルリンまで行って、首席指揮者として最後の演奏会を聴くことにしたんです。そうしたらその公演に、中学の同級生が乗っていたんですよ! 人生でこれほど人のことを羨ましいと思ったことはないですね(笑)。彼から “ベルリンに来るんだったら絶対に気が合いそうなやつがいるんだけど、名前だけ教えるから連絡とって!”……と言われて紹介されたのが滝千春でした。そして公演の後に、皆さんでご飯を食べに行きました。」
滝「私からすると彼は高校の同級生なんですよ。その晩は楽しかったってことしか覚えていないぐらい、大した話はしていないんです。それで翌日、改めてランチをご一緒したんですけど、その会話がすごく楽しかったんです! 出てくる言葉ひとつひとつに重みがあることにちょっと感動して、この人と仲良くなりたいと思ったんです。だから音楽家としてどうこうの前に人柄に惹かれて惚れ込んだんですね」
――それでベルリンでの楽しい出会いの後、実際に音楽で共演するのは……?
滝「それから数年後、東京オペラシティの“B→C(ビートゥーシー|バッハからコンテンポラリーへ)”という公演に出演することが決まりまして。その時、真っ先に浮かんだアイデアが挾間さんに新作を書いてもらうことだったんです。それで連絡をとって……」
挾間「2人の地元が近いので、そこでお茶しながら相談したよね(笑)」
――こうして生まれたのが、滝さんのYouTubeでも公開されている《B↔C(ビー・トゥー・シー)》という曲ですね。公演名の矢印だけ双方向に変えてタイトルにしていますが、どういうコンセプトの楽曲なのでしょう?
挾間「最初はB(=シ)とC(=ド)の間に音がいっぱいある離れた状態からはじまって、行き来を繰り返していくとその距離がだんだん縮まっていき、最後はシとドが隣り合わせになって終わる、非常に明快でシンプルなコンセプトで書いたんですよ。でも作曲には苦労してまず、BとCが離れている段階で、その間にBとCを使っちゃいけないのか、それともいいのか? コンセプトも大事ですけど、音楽的に成り立たせないといけないので……。あとは無伴奏だと特にメロディを弾いている下の和音は開放弦をうまく使うことで可能性が広がるんですね。主にその2つに苦労しながら作ったことを覚えています。
滝「演奏している側としては全然シンプルじゃないんです(笑)。確かに一言でいえばBとCを行き交う曲なんですけど、その駆け巡るあいだにドラマがちゃんとあったり、一度聴いたら忘れられないリズムがあったりして、きっちりと人の心を掴むのがさすがなんです」
挾間「私が驚いたのは、それを暗譜で演奏したんですよ! 考えられない(笑)」
滝「何でしょう……ちょっと根性見せたい!みたいな感じでハートが燃えてしまったんですよね」
挾間「いやあビックリでしたよ。それに初演(2021年)の時点で、作曲者である私の手から完全に独り立ちした作品として聴かせてくれたのがとても嬉しかったですね。解釈としても彼女の音楽になっていたので何も心配することなく客観的に楽しめましたし、作曲家としてこんなに幸せなことはなかったです」
――滝さんは新しい音楽を演奏する際、どんな意識で向かいあっているんですか?
滝「作曲家の理想を超えたいとはいつも思っていますね。楽譜に書かれている音ひとつひとつに意味のないものはないと信じているので、ちゃんと自分のなかで言語化して消化して、またそれを演奏として発信する。そこまでのプロセスを責任もってちゃんとやらなきゃいけないと意識しています。逆にちゃんと消化しきれていないなと思ったら、そのフレーズに向き合うようにして、最終的には自分発信で伝えられる音楽に仕上げるようにしています。でも同時に、あくまでも主体は作品であり、作曲家であると思っていて、演奏家である自分は良質なフィルターでありたいですね。作品があるからこそ、私は舞台上で生かされているんです」
――そのあと、すぐに次のコラボレーションは続かなかったのでしょうか?
滝「実はそのあと、次は挾間さんと弦楽でヨーロッパ・ツアーをすることが決まっていたんですけど、新型コロナのために何度も延期された末に中止されてしまったんです。その代わり挾間さんにベルリンまで来てもらって収録したのが、YouTubeにもアップしている《B↔C》の映像です。だから、このMaNGROVEはそのヨーロッパ・ツアーのリベンジでもあるんですよ」
――あらためてMaNGROVEという名前には、どのような思いが込められているのでしょう?
挾間「マングローブは熱帯雨林のアマゾンに生息する非常に貴重で、唯一無二ともいえるユニークなアイデンティティをもった植物ですよね。このプロジェクトのユニークさを表し、なおかつ人(Man)が紡ぐグルービー(Groovy)な音楽を生み出したいといった思いから、みんなで知恵を出し合って名付けました」
――クラシックのミュージシャンによる弦楽四重奏と、クラシックとジャズの両方を演奏できるコントラバスとピアノ……という、やや変則的な六重奏を選んだのは何故なのでしょう?
挾間「組曲《Space in Senses》を再演して新たな可能性を見出したいという思いが非常に強くあるからですね。これは私自身にとって本格的なデビューとなった2013年の「挾間美帆のジャズ作曲家宣言!」という公演で初演したオーケストラと2台ピアノ(山下洋輔と挾間が演奏)の曲で、星座などといった空間に作られる形を題材にしています。翌年の出光音楽賞受賞記念コンサートで演奏したのが今回と同じ六重奏に編曲したバージョンでして、この編成のなかで出来る曲目をプログラムに選びました」
――弦楽四重奏のメンバーですが、山根一仁さん(ヴァイオリン)は挾間さんと過去にも共演していましたよね。
挾間「はい、そうなんです。今回も演奏する《CHIMERA》という弦楽四重奏曲はもともと、横浜みなとみらいホールの「Just Composed in Yokohama」というシリーズで、プログレッシヴ・ロックもレパートリーにしているモルゴーア・クァルテットのために作曲したんですよ。それで今度は、このシリーズに山根君が出演することになって、その時に《CHIMERA》をヴァイオリンとピアノで再演したんです」
――それ以外のメンバーはどのように決めたのでしょう?
滝「私が選ばせていただきました。ルオシャ・ファン(ヴィオラ)は日本では知られていないかも知れませんが、数年前にブダペストの音楽祭で出会ったヴァイオリスト兼ヴィオリストです。中国出身で、今はニューヨークを拠点にしています。全くもって誰とも似通っていない自分の音楽をクリエイトする、いつもサプライズを与えてくれるような音楽家なので、一緒に共演したら自分がどんな風に変われるのか、今からとても楽しみなんですよ。佐藤晴真くん(チェロ)は色んな物事を立体的にとらえて、音楽を構築していけるので、この4人で絶対に良い化学反応が起きるなと確信しています」
挾間「全員、個性強いですね(笑)。大編成で出来ないことをやろうとしているので、このメンバーは本当に楽しみです。それこそ《CHIMERA》もどうなるのかワクワクしています。コントラバスの木村将之さんは私がお願いしたんですけど、彼以外は考えられなかったです。やっぱり芸大卒なんで本当に巧くて楽器がよく鳴る。楽譜が読めて、ジャズの即興も出来る。私としては非常に安心して楽譜が書ける信頼感があります」
――先ほどまで何回か話題にあがりましたけど、それでも挾間さんは作編曲と指揮に比べると、ピアノの演奏を披露する機会ってかなり限られていましたよね。
挾間「デビュー以来、自分で作編曲した曲以外をピアノで弾くことってほぼなかったんですよ。でも今回は敬愛するクラウス・オガーマンが編曲したチャップリンのスマイルも、滝さんと私のふたりで演奏しようと思っています。私自身、編曲という仕事をしていていつも気をつけているのは、アレンジャーが手を加えすぎて原曲の良さを潰してしまうケースです。ところが、このオガーマンのアレンジはチャップリンの原曲から大きく変えすぎているほどなのに、あまりにも素晴らしくて、編曲の極地にあるような作品なんですよ! 私も滝さんも大好きなプロコフィエフの『ロメオとジュリエット』をアレンジして六重奏で取り上げるので、こちらは原曲の良さを残しつつ、今回のテーマであるグルービーな部分を付け足せたらと考えています」
――滝さんにとってプロコフィエフは、単に好きな作曲家というどころか、最も近しく感じる作曲家だそうですね。スランプだったときもプロコフィエフは問題なく弾けたとおっしゃっていました。
滝「プロコフィエフが並べる音符は、私にとって言葉として届くんです。音符だから言語の壁を超えて、彼の言いたいことがスッと入ってくる感覚になります。だから何らかのストーリーがあるように聴こえるんです。それはサウンドが全く違っていても挾間さんの音楽にも共通していて、聴いていると何かしらかが想像できるからこそ、どちらも凄く共感できるのだと思います」
――このプロジェクトの記念すべき初披露の場となる小金井 宮地楽器ホール(小金井市民交流センター)では、これまでも滝さんが意欲的な企画を実施してきましたね。
滝「小金井市は私にとって地元なのですが、小金井 宮地楽器ホールではシュニトケやペルトを取り上げる攻めた企画をやらせてもらったりと非常にお世話になっています。ここでまた新しいプロジェクトをはじめられるのが本当に嬉しくて。とてもいいホールなので武蔵小金井駅まで是非とも聴きに来ていただきたいですね!」
――このプロジェクトでどんな化学反応が起こるのか、ますます楽しみになりました!
2025年7月28日(月)
インタビュー:小室敬幸