突然ですが、「ショパンとリスト、あなたはどっち派??」
4日間にわたって開催した、開館10周年記念のピアノ・フェスティバル「ピアノ! ぴあの! PIANO!!!」の大トリは、名実ともに飛ぶ鳥を落とす勢いのピアニスト、金子三勇士さんのリサイタルをお届け。ピアノの二大巨頭、ショパンとリストを対比させながらその魅力を再発見していこうというコンサートです。
いざ開演。金子さんがステージに登場し、ピアノの前に座るや否や、一呼吸も置かずに情動的な「革命のエチュード」(ショパン)を弾き始める姿には度肝を抜かれ、その激しい音楽の渦に飲み込まれていくような感覚さえ覚えました。
…かと思えば、2曲目は「コンソレーション 第3番」(リスト)で、同じピアノとは思えないほどの、甘く切なく、あたたかな音色に包まれました。
そして、ナビゲーターの浦久俊彦さんが加わり、トークコーナーへ。
一般的に、「ピアノの詩人」と呼ばれ、小柄で病弱、繊細なイメージの強いショパンと、「ピアノの魔術師」と呼ばれ、体格も大きく超絶技巧が有名なリスト。最初の2曲はあえてそのイメージの逆を行く曲をチョイスしたという種明かしがされたところで、冒頭の「ショパンとリスト、あなたはどっち派??」という問いかけがありました。会場の反応は「6:4」くらいだったでしょうか。そして、同時代に生き、お互いへのリスペクトや憧れがあったというショパンとリストの関係性について、トークが繰り広げられました。
次の対比は、いわゆる「ショパンらしさ」「リストらしさ」が表れている2曲を演奏。
「雨だれの前奏曲」(ショパン)では、極上に美しいピアニッシモが、ショパンの真髄を感じさせ、「ラ・カンパネラ」(リスト)では、溢れ出すパッションが大編成のオーケストラを聴いているような迫力を感じさせました。
後半は、トークコーナーで自ら「体力的にも精神的にも、連続して弾くことは極めて困難」と語っていた30分スケールの大曲を2曲続けて演奏。客席にも心なしか緊張感が漂い、覚悟を決めて全身で音楽を感じようとする集中力に満ちていました。
1曲目はショパンの「ピアノ・ソナタ 第2番 《葬送》」。
有名な第3楽章「葬送行進曲」の印象的なモチーフから想起し組み立てられたという本曲は、静と動、闇と光を往き来するようなたゆたう叙情性と力強さを感じる演奏で、会場は静謐な空気に包まれました。
もう1曲はリストの「ピアノ・ソナタ ロ短調」。
いわゆる「序奏-提示部-展開部-再現部-コーダ」というソナタ形式や楽章という概念を超え、モチーフの有機的な結びつきによって構成される壮大な楽曲。ハンガリー人の母を持ち、リスト音楽院で学んだ金子さんから紡ぎ出される音は、まるでリストの魂が乗り移った慟哭のようでもあり、その重厚さと崇高さにただただ圧倒され、涙するお客さまの姿も。
最後の1音が鳴りやむと、長い余韻のあとに、満席の客席から割れんばかりの拍手が送られ、金子さんは何度も紳士的な笑顔で応えてくださいました。そして、トントンとピアノを労うような仕草も。
「ショパンはピアノになろうとした。リストはピアノを超えようとした」というお話も納得の2人の巨頭の対比を、素晴らしい演奏で炙り出してくださった現代の名手、金子三勇士さん。
フェスティバルのフィナーレにふさわしい、大充実の時間となりました。
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【こがねいジュニア特派員 イベントレポート vol.31】
(公演写真:友澤綾乃)